[BLACK SMOKER]がお贈りするエクスペリメンタルミュージックシリーズ!!!!! ジャズからエレクトロニック・ミュージックまで、多彩な活動を行う大谷能生によるジャズとヒップホップのアブストラクト・アマルガメイション! スタジオでは何かと目の敵にされる雑音がライヴの場では現場の雰囲気をいきいきと再現する背景音になるから、その音源はドキュメントとしてすぐれている、ということではない。食器の擦れ合う音、キャッシャーのチンジャラジャラ、声をひそめた会話、息づかい、ひとの気配、これらはケージのことばを俟つまでもなく、音楽のいちぶではなくそのものであり、欠かすことはできない。ある夜、ヴィレッジ・ヴァンガードに登場したピアニストのライヴ盤を聴いてジャズにめざめた大谷能生の感じ方はそのまま私の音楽体験にも重なってくる。わかりすぎるほどわかる、ひょっとしたら時代というものの働きがあるかもしない。大谷能生がジャズに狂いはじめたとき、ヒップホップはすでに存在した。そこではジャズやソウルやファンクから切りだしたビートがループした。音楽の線条の時間は音盤になることで不動を約束されたかに思われたが、リサイクルされる段になってアーカイヴは急迫した。90年代の話である。ジャズもスウィングの、ビバップの、モダンの、フリーの、フュージョンの歴史の上から高みの見物をきめこむわけにもいかなくなった。ビートの最小構成単位に切断された過去は組み直されることで現在進行形を意味するだけでなく未来を予見したが、エレクトロニック・ミュージックはエントロピーを増大させるかのようにジャンルも方法論も細分化をきわめ、ちょうど前世紀と今世紀の変わり目、ようやく未来になったあたりで道に迷っていた。そのとき、批評家でもある大谷能生は音楽の歴史を問い直す著述を多くこなし、古典にことばで向かうことで、現実の閉塞感を打破する方法を模索していた。本人はそうじゃないというかもしれないが、そうじゃないこともないだろう。 追記 『Jazz Abstractions』には大谷能生の鋭い言葉選びと押韻のセンスを披露したラップトラックを3曲収録している。『「河岸忘日抄」より』で露わになった大谷能生の肉感的な(と書くと、なんかいかがわしいが)声によるアブストラクトなラップもまた聴きものである。 ◆大谷能生(おおたによしお) |
1. Thelonious Study #1
2. Colemanʼs Mushup TV Dinner
3. Bob James
4. Percussion Bitter Sweet
5. No Cover,No Minimam
6. Elvinnvie
7. Cumbia Jazz Fusion
8. DlsMcx
9. Thelonious Study #2
10. Conquistador!
11. Iʼll Remember April Rejoice
12. Strange Fruits
42:27s
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大谷能生の天才が遂にその全貌をフルドロップ!間違いなく世界初の、アブストラクトジャズ・トラック&アブストラクト・リリック&アブストラクト・ラッピンによるHIP HOPアルバムが、孫子の関係にあるJAZZとHIP HOPの、曖昧だった関係をズタズタに明確にする!
(菊地成孔)