Artist : 灰野敬二
Title : EXPERIMENTAL MIXTURE
仕 様 : 1MIXCD
LABEL : BLACK SMOKER
「DJブースに大量に積み重ねられたCDは、
MIXのために寄せ集められた素材であり、
かつての時代の人びとが残した賜物であり、儀
式のために丁重に捧げられた供物。DJ灰野敬二とは、
白魔術の司祭であり、能の翁かもしれない…」
黒魔術じゃなくて白魔術なの。呪ってるんじゃなくて祈ってる。これは供犠。音楽の、歴史の、人間の。DJブースに大量に積み重ねられたCDは、MIXのために寄せ集められた素材であり、かつての時代の人びとが残した賜物であり、儀式のために丁重に捧げられた供物。DJ灰野敬二とは、白魔術の司祭であり、能の翁かもしれないね。轟音と静謐が出し入れされ、時間が自由自在に操られている本作を聴いていると、思わず能の舞台に入り込んだようにも感じる。もっと言っちゃえば、DJ灰野敬二って、ベンヤミンが書いてた歴史の天使なんじゃないかな。過去のほうを振り向いたまま未来に向かう突風に吹き飛ばされていく歴史の天使。かつての時代にあった声たちや音らを召還しながら、それらを互いに行き交わせ、あるいはドラムマシンやCDJとの間で新たな響きを通い合わせる。そうして新たに発生した歴史のドームのような激しいざわめきの時空間は、エクスペリメンタルでありながら古典の風格が漂ってる。激烈でありながら愛らしく、厳格でありながら慕わしい。民俗的な男声と女声が呼び交された地点にヒップホップが追いつきハープシコードがバロックに響けばアフロパーカッションとビックバンドジャズが傾れ込んでくる。聞き覚えのあるロックのフレーズが奥のほうからやって来てやがてケルトと古楽の中に去っていく。目まぐるしく出し入れされる幅広い音たちだが、垂直的に降ろすような使い方がされていないことに今気づいた。どれだけ激流であろうと時間とは流れるものであり、音たちは突如現れるものでもなければ、逆に言うと消えることもない。歴史とは夥しい破局の連続かもしれないが、カタストロフィで終わるほど世界はやさしくはない。そんなことを考えながら本作を何度も聴いて、ふと思う。DJ灰野敬二とは、擬自然化した人間なんじゃないかって。(五所純子)
公表されておりません。
日本の現代音楽において、その前衛的傾向を主導してきたミュージシャン。1971年に日本初のインプロヴィゼーションバンド「ロストアラーフ」を結成し、本格的な音楽活動を開始する。以降、現在に至るまで、ロックをベースに、ノイズ、サイケデリック、フリージャズ、民族音楽など、ジャンルを自在に横断しながら、アンダーグラウンドミュージック界を牽引。黒を基調としたコスチュームで、激しい身体性を伴うパフォーマンスを展開する。挑戦的で実験的な作品群は、日本のみならず海外での評価も高い。リリースしたレコードやは優に100を超える。ソニックユースのサーストン・ムーアをはじめ、彼を信奉するミュージシャンは世界的にも数多い。